新年度を迎えました。
 振り返ってみますと予報通り今年は暖冬・小雪でした。毎年1回は行う除雪でできた雪山の排雪も全く行わなくてすみました。3月早々には植え込みに若干の残雪があるのみで、敷地内のアスファルトは乾燥している時間が長いシーズンでした。しかし昨年にはなかった3月中の重機による除雪が今シーズンはありましたし、春彼岸直前には吹雪の日もありました・・・「暑さ寒さも彼岸まで」とはよく言ったものです。でもあと数週間もすれば桜も開花ですね・・・楽しみです!
 さて今月から新年度に入りますが、ちょうど1年前の本稿を見ますと、子宮頸がん予防ワクチンに9価ワクチンが導入されたことをテーマにしていました。「守備範囲が広い」ワクチンということで、当院で昨年度接種した方の90%は9価ワクチンを選択しております。新年度を迎え今またHPVワクチンを今回のテーマにしましたが、それには「時間的制約」が関係することにあります。
 以前の本稿でもお話ししましたことと重複しますが、HPVワクチンは2010年に導入され2013年からは定期接種の扱いになりました。しかし間もなく接種が控えられ る状況になり、その後有効性と安全性が再評価され2022年4月から個別接種が勧奨されるようになりました。HPVワクチンの接種対象年齢は小学校6年生~高校1年生相当ですが、定期接種が控えられた2014年度から2021年度までの8年間に接種対象年齢であった1997年度生まれ~2006年度生まれの女性は、「HPVワクチンの空白年齢層」となっており、その年代における接種を「キャッチアップ接種」と呼びます。
 1997年度生まれ~2006年度生まれ(正確には1997年4月2日から2007年4月1日生まれ)の女性は、今年度高校3年生から27歳までの10年で、これらの方がキャッチアップ接種の対象となるのですが、キャッチアップ接種が公費で全額負担されるのは今年度一杯なのです。9価ワクチンの場合、「初回接種時の年齢が9歳以上15歳未満」であれば「初回と6~12か月後」の2回接種が可能ですが、キャッチアップ接種では必然的に「初回と2か月後と、さらに初回から6か月後」の3回の接種を行うことになります。最終の接種から逆算すると、すべて公費で接種を賄えるためには初回接種は上半期一杯、つまり今年の9月末までに1回目の接種を終えなければいけません・・・となると、あと半年以内に行動を起こさないといけないことになります。
 昨年度までの当院におけるHPVワクチンの接種状況を振り返ってみましょう。分母としては数少ないのでお恥ずかしい限りですが、以下に示します。(※1 個別勧奨は2021年度からですが当地域では2020年11月より自治体からの個別勧奨がありデータとして記載しました ※2 20歳以上の割合は接種総数ではなくキャッチアップ人数を分母として算出しています)。

 

2023R5

2022R4

2021R3

2020R2

総数(人)

38

46

40

20

内キャッチアップ

1539%)

3576%)

615%)

1995%)

20歳以上

533%)

1029%)

117%)

0


 データを見ますとCOVID-19明けなのに接種総数は伸び悩み、またキャッチアップ自体も伸び悩んでいます。割合で見ますと20歳以上のキャッチアップ接種率が微増しておりますが、実数自体は低く、また内訳を見ますと各年度とも21歳くらいまでしか接種にいらっしゃっていない結果でした。公開されているネットを介したアンケートでは、キャッチアップ接種対象年齢の30~50%に接種意向があるという結果で、当地域のデータと相反しない結果でした。しかし定期接種再開以前の効果を期待するには1年間の総接種率が9割を超えないといけないという報告もあり、キャッチアップ接種率を向上させるのは、当地域はもちろん日本全体の課題と言っても過言ではありません。
 HPVワクチンの効果につきましては本稿でも幾度となくお話してきました。下衆な視点で申し訳ないですが、HPVワクチンは公費補助となっているワクチンの中で最も高額なものです。もし9価ワクチンを自費で3回行うとなると、総額が10万円近くになる恐れがあります。ましてや病気になったときには経済的負担以上に心的負担ものしかかります。急かすような話題で申し訳ないのですが、期限がある以上、キャッチアップ接種対象者の方は今一度、接種についてお考えいただきたいと思います(2024.4.1)。 

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 みなさん、こんにちは
 先月には、女子バスケットや卓球などオリンピック出場予選会が次々催され、代表が決まっていきました。夏季と冬季オリンピックが同年開催された1992年以降、偶数年はオリンピックの開催年と分かっていましたが、東京オリンピックがCOVID-19で1年延期となり、その翌年北京冬季オリンピックが開催されたことから、なんか頻繁にオリンピックが開催されている印象です。今年はパリで7月下旬から熱戦が繰り広げられ、会場等は環境に「やさしい配慮」がなされるそうですが、猛暑の中競う選手にも是非「やさしい配慮」をお願いします。
 さて先月お隣の韓国から、「ん!」と声に出そうで出ないようなニュースが入ってきました。見出しは「韓国で医師が大規模スト、政府の医学部増員計画に反発」で、要旨としては「韓国政府が医師不足への対策として、大学医学部の入学定員を拡大すると発表したことをめぐり、多くの医師が反発しストライキに入っている。当局によると、2月19日には6,500人近い研修医と専攻医が辞表を提出した」とのことです。日本でも医師のストライキとして60年以上前の1961年に診療報酬引き上げを巡り、病院・診療所の「全国一斉休診」がありました。しかし全国規模の医師のストライキはこれが最後であり、1978年の医師優遇税制廃止の際にもストライキは起きませんでした。韓国において若い医師たちがストライキになった背景には何があるのでしょうか?
 その前に日本と韓国の医師養成課程の違いについてお話しますと、医学教育は両国とも6年制です。日本では卒後国家試験をパスすると、2年間の研修医期間で主要診療科の修練をして、その後希望の専門科の専攻医になります。産婦人科の場合、最速で3年間の研修の後に専門医受験資格が与えられ、それにパスすると産婦人科専門医ということになります。韓国では卒後の国家試験をパスすると1年間の研修医期間、そして4年間の専攻医期間を経て専門医になりますが、研修医-専攻医、専攻医-専門医間のステップアップの際に試験をクリアしなければいけません。韓国では約3,000人の医学部定員なので、研修医・専攻医の約4割がストライキに入った計算になります。
 ストライキの要因ですが、記事見出しにあるように「政府の医学部増員計画への反対」です。韓国も日本同様、医師数の地域間格差が顕著であること、また外科・産婦人科・小児科等の労働荷重が高い診療科が敬遠されていることから、医学部定員の拡大や医学部増設によって年間400人の定員増とし計10年間で7,000人・・・そのうち「地域医師(10年固定)」を3,000人確保するという計画を発表しました。この案に若手医師が反発した理由の一つとして、OECD16か国の中で韓国が患者一人当たりの平均外来受診件数が16.6件と最も多い(次点が日本で12.6件)ので、医師数増加は医療費増加を招来することを挙げていました。しかしどの職種でもそうですが、医療でも数が増えるとある種競争原理が働くため、必ずしも医師数に比例して医療費が増大する(これを「医師誘発需要仮説」というそうです)とは言い難いという分析結果も出ています。
 診療科・地域間格差に対し先行して対策を行っている日本ではどうでしょう?秋田に関していえば、私が入学した40年前の医学部定員は100名でした。その後医師過剰の懸念がでたため1997年に一旦は95人に削減されました(全国計7,625人)。しかし偏在が深刻化すると2006年に「新医師確保総合対策」として宮城県を除く東北の医学部定員は10人増となり、その後2007年の「緊急医師確保対策」、2010年度からの地域枠の増設等により、現在の定員は124名(うち地域枠29名)となっています(全国計9,420人)。学年により差はありますが私達の同期のうち約4割が県内に留まりました。最近秋田県では毎年60人前後の研修医がマッチングして研鑽されておりますが、伝え聞く話では秋田大学出身者の数は私たちの頃とそう大差がないそうです(分母は増えているのに・・・)。
 診療科に関しても、先の韓国の状況のように外科・産婦人科・小児科等、緊急性も労働荷重も高い診療科は敬遠されており、最近ではその傾向に拍車がかかり、美容外科等へ最初から進路をとる若手の医師もいらっしゃるとのことです。このような状況で来月からは「医師の働き方改革」もスタートします。医学部定員増員で全国の医師数は確かに増えたでしょう。しかし長年地域医療に携わっている一人としては、状況は年々悪くなっているばかりです。「入口戦略」では医師偏在解消は厳しく、国としては効果的な一手を打ってほしいものです(2024.3.1)。

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先月は元旦早々、大災害に見舞われました。
 能登半島地震・・・M7.6の大地震が元旦夕方の能登半島を襲いました。津波も襲来し道路も寸断され、本稿を綴っている現在でも被災全容が未だ把握できておりません。被災された皆様方には衷心よりお見舞い申しあげます。阪神淡路大震災、東日本大震災、それにこの能登半島地震・・・ここ30余年に本州で発災したM7を超える大地震はすべて冬季に生じています。雪国の方は十分お判りでしょうけど、寒気や降雪は「救援」「救助」「士気」「健康」「復興」など、すべての力を削ぎ落します。遅きに失する感がありますが、国の防災対策は厳寒での発災を基準として組み立ててもおかしくはないと考える次第です。
非日常の避難生活が始まるとメンタルの不調や持病の悪化、さらに感染症など元来頑強な方であっても健康を損なうリスクに囲まれているといっても過言ではありません。また病気までとはいえなくとも、心身の不快な症状に悩まされるかもしれず、そういう症状は避難生活下に限らず、日常の生活下でも出現してもおかしくないものです。
 閉経を迎えるころになると、外陰部の違和感で受診される方を散見します。「違和感」と言っても人それぞれで、「痛み」である人もいれば「乾燥感」という人もいるし、「かゆみ」という方もいれば「ヒリヒリ感」という方もいらっしゃいます。以前はこれらの症状は「老人性膣炎」とか「萎縮性膣炎」として対応していました。以上の症状に加えこの年代では頻尿や尿漏れといった尿路症状や、また乾燥感から繋がる「湿潤性の低下」は性交障害の一症状となっています。以上のように閉経した女性における①生殖器症状(乾燥・痛み・かゆみといった外陰部違和感や不正出血など)、②尿路症状(頻尿・尿失禁・反復する膀胱炎など)、③性機能障害(湿潤性の低下・性交痛など)の諸症状を呈する状態を閉経関連泌尿性器症候群(Genitourinary syndrome of menopause)GSMと呼ばれています。
 GSMの諸症状は以前からあるもので報告によると閉経女性の5割ほどが何らかのGSMの症状を有するとのことですが、GSMが提唱されたのは2014年と比較的最近であり、その根本にあるのは女性ホルモンであるエストロゲンの低下にあります。閉経時期になると女性ホルモンは有経時の10分の一ほどに減少してしまいます。外陰部に関しますと、エストロゲンは外陰部の皮膚の伸展性や粘膜の潤いに働いていますため、それが低下すると皮膚の萎縮や粘膜の乾燥を招き、結果として不快感をもたらすことになります。加えて10年前の本稿でもお話ししましたが、、女性は一人一人膣内にデーデルライン桿菌という善玉の乳酸菌に似た細菌を膣内に飼って?膣内を弱酸性に保持し衛生を保っています(自浄作用と言います)が、エストロゲンが低下してしまうとデーデルライン桿菌も減少し、自浄作用の低下から膣炎を発症し、おりもののトラブルや不正出血を来すことになります。エストロゲンと同時に女性でもある程度分泌される男性ホルモンであるテストステロンの低下や、加齢による支持組織のゆるみから、頻尿や尿失禁といった排尿トラブルを招くことによります。
 GSMの治療としては、女性ホルモン剤を主とした薬物療法になります。ただ尿路症状が優位の場合は、膀胱周囲の「筋トレ」である「骨盤底筋体操」や頻尿改善薬に絞って治療を進めることもあります。女性ホルモン剤としては経口剤や貼付剤のほか膣錠もあり、症状や年齢を考慮しながら使用していきます。最近ではレーザーを用いた治療もありますが、健康保険が適応されず高額なのが難しいところです。以上治療について述べましたが、日常気を付けることとして、デリケートゾーンの保湿を図ることが大切ですが、長期の避難生活においては、保湿以前にプライベートゾーンの清潔が保てない状況になっています。メディアでも取り上げられていましたが、①濡らしたコットンやアルコールを含まないベビー用のウェットティッシュでの清拭、②こまめなおりものシートの交換などで、できるだけ清潔を保持するように努めましょう。
 なお注意したいこととしてGSMは年齢で区切られた病態ではないということです。出産後、授乳中、乳がん治療、子宮筋腫や子宮内膜症などの偽閉経療法などのホルモン治療といった「低エストロゲン状態」でもGSMの症状が出現します。ただこのような方は意図して「低エストロゲン状態」にしているので、女性ホルモン剤の使用はGSMを改善しても持病に影響を及ぼすリスクもあるため、その使用に当たっては主治医の先生と十分相談されることが必要です(2024.2.1)。

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 あけましておめでとうございます
 長期予報では暖冬小雪で、確かに白神山地がいい仕事してくれたおかげ?で、年末は沿岸部のような荒れた天候にはなりませんでしたが、気温に関しては12月とはいえマイナス10℃を下回り、「12月ってこんなに寒かったっけ?」て思う日が幾度となくありました。根雪までの期間が長かったせいもあるんでしょうか・・・でもあと正味1か月半、旧正月くらいになると少し緩んできますので、そこまでの頑張りですね。
 さて元旦と言えば初詣ですが、TVのように大みそかの深夜から出かけるような初詣をここ数十年していません。お札等の準備も年末にしているので、新年を迎えるにはかなり不調法になっています。昔は初詣に行くと「おみくじ」を引いて運勢の文面で一喜一憂していたのですが、それもすっかりなくなってしまいました。
前回のカプリでは「平成」というフィルターを通して変化した「産科医療」についてお話ししましたが、今回は「婦人科医療」ついてお話ししていきたいと思います。先に述べた「おみくじ」はこれから先の運気を語っていますが、ここ30年の婦人科医療は病気の治療はもちろんですが、これから「なるであろう病気」を「病気にならないようにする」へのシフトがはっきり見えた時代ではなかったかなと思っています。
① 腫瘍領域:良性疾患で言うと、子宮筋腫や子宮内膜症に対しての「切らない治療」が当たり前になったことが大きいです。昔はこれらの病気では、ほとんど手術療法が選択されましたが、点鼻や注射、錠剤などのホルモン剤による薬物療法が大きな治療の選択肢になり、「手術にならず」子宮の温存が高まりました。また分子生物学の発展により、がん抑制に働く遺伝子であるBRCA1やBRCA2に異常が生じる遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)が明らかになり、本稿でも10年前にアンジェ―リーナ・ジョリーさんの件で取り上げましたが、がんを回避するのを目的に予防的に乳腺切除や卵巣摘出がなされるようになりました。日本でも4年前から乳がん・卵巣がんの診断を受けた方がHBOCであった場合、がんに罹患していない乳房や卵巣についての予防的切除が保険診療として認められています(遺伝子異常だけでの予防的切除は保険診療にはなりません)。
② 不妊症領域:今でこそクリニックでも行われている体外受精などの高度生殖補助医療は平成の初めころは大学病院レベルでしか行われていませんでした。治療に関わる資材も高価であり、また妊娠率の向上も図るため、体外受精はある時期にまとめて、そして質の良い受精卵はすべて胚移植しておりました。当時産科医として勤務していますとある時期に品胎(三つ子)や要胎(四つ子)といった多胎の帝王切開が日も空かないで続くことがありました。生まれてくる赤ちゃんたちは当然未熟児ですので、小児科では保育器のマネージメントに四苦八苦しておりました。それ以前に多胎妊娠は母体へのリスクも非常に大きいため、2008年に日本産科婦人科学会は移植胚は原則1つ(2回以上続けて妊娠不成立などの場合は2胚移植)とする見解を出しました。見解に加え凍結胚も安全に管理・移植されるようになると、多胎自体が少なくなり、それに伴うトラブルも防ぐことになっています。
③ 女性ヘルスケア領域:この領域では生命危機に直結するものはほとんどありません。でも更年期症候群における女性ホルモン補充療法は、症状の改善に加え骨量の低下に歯止めもかけるため、骨粗鬆症の発症予防に働きます。また思春期の重い生理痛は大人になってからの子宮内膜症のリスクになることがわかっていますので、若いうちから低用量ピルなどで生理を軽減することは、子宮内膜症の一症状である不妊症の発症予防に寄与するとも言えます。骨粗鬆症からの大腿骨骨折は高齢者の寝たきりに直結しますし、成熟期での不妊症の診断もかなりのストレスになることですので、この領域のすそ野が広がることで、将来の疾患リスクを減少させることが期待されます。
 以上、30年余の婦人科医療における予防的医療(あくまでも個人的)を列挙してみました。医療ではありませんが、コロナ禍というフィルターを通過中に検診受診率が非常に低下してしまいました。皆様には今年の抱負?として、是非とも「今年は検診を受ける!」と決意していただきたいとことです(2024.1.1)。


 
2023
 
院長のcapricciosa(気まぐれ)